俺たちのヒーロー列伝・その23 天知茂(1931~1985 )
つづいてのヒーローは…
天知茂(あまち・しげる)さんです。
荒木しげるさん→露口茂さん、ときたので、「しげる」つながりにしました。
前回の露口茂さんとほぼ同年代で、共に渋い名優でしたが、「ニヒル」さの漂う主人公の似合う代表的俳優として「非情のライセンス」などの当たり役をもつ大スターでした。
ニヒルな存在感、というのはどちらかというと脇役に多く見られるものと思っていますが、これを主演者として表現し、存在感を高めっていた人、だと思います。
勿論「非情のライセンス」の会田刑事の印象が絶大なのですが、時代劇でも主演者として存在感を放っていた方でもあり、自分が見た限りで、あまり数はないのですが、それぞれの印象について綴っていきたいと思います。
「大岡越前」/神山左門
1970(昭和45)年より放送スタートしたロングラン時代劇で、初期はあの「水戸黄門」と交互に放送されていました。
その中で、初作から第三部までの出演でしたが、与力・神山左門として登場し、「カミソリ左門」とあだ名される切れ味鋭い与力役で、あまりちゃんと見た事がなかったのですが、後に演じる事となる「非情のライセンス」の会田刑事にそのままつながるような役柄でした。
「非情のライセンス」/会田刑事
1973(昭和48)年より3部にわたり放送された、彼の代表作です。
ニヒルな苦みばしった男の眉をひそめる姿が、世のマダムたちを虜にしたといっても過言ではない、ここで確固たる存在感を築き上げたといえるでしょう。
放送日は以下の通りです。
第1シリーズ:1973年4月~1974(昭和49)年3月
第2シリーズ:1974(昭和49)年10月~1977(昭和52)年3月
第3シリーズ:1980(昭和55年)5月~12月
第1・2シリーズはほぼ同時期で、半年開いているだけで、第3シリーズは3年開いて1980年代の放送となり、少し異質な感じになっていました。
第1シリーズは1年で終了しましたが、第2シリーズは好評だったのか結局2年半続き100話を越えるエピソードがインターバルなく放送されました。そしてまたこの第2シリーズは多くの仲間の刑事たちが殉職し、某刑事ドラマを意識していた気がしましたが、実際にそのドラマで刑事が殉職するという同時期に、2話連続で殉職エピソードを出したりもしていました。(裏番組ではありませんが)
ここで演じた会田刑事は、広島出身で両親を原爆で失くし自身も被爆者で、姉や妻など家族が悲しい最期を遂げ、人一倍犯罪を憎む熱い男で、とかくこのドラマは天知氏の持つ雰囲気がマダムキラー的に炸裂する人情刑事ドラマとイメージする方も少なからずと思いますが、実際見ると会田は結構拳銃の発砲をするし、しょっちゅう暴走して止まらないそれこそ「あぶない刑事」という感じです。
推理や説得など、腰を下ろしている時と、ハードなアクションをしている時の落差が結構大きいです。決して人情モノではなく、時にはバイオレンスアクションになるし、女性遍歴的なものも描かれる事も少なからずで、当時放送されていた坂上二郎さん主演「夜明けの刑事」などとは全然肌の色が違う刑事ドラマでした。
某人気刑事ドラマでいうところの、山さんとゴリさんを足して2で割って、別ドラマの櫻井刑事の血を入れて40代にしたかのような感じ?でしょうか。ただ存在しているだけのカッコよさ以外に、それとは裏腹に暴走気味な行動をするところも彼の魅力であり、こちらは男が見てもカッコいいと思える中年像だったように思いました。
サブタイトルには必ず「兇悪」の文字が使われていたのも印象的でした。
「野望」/氏家修(猪斐雅彦)
「非情のライセンス」の第2シリーズが終了後の1977(昭和52)年10月~1978(昭和53)年3月までの半年間放送された作品で、この原作をかねてよりいたく気に入っていて、主演したいと願い出たものの「非情のライセンス」が製作される事となり、5年越しで主演が叶ったといいます。
「非情のライセンス」の会田が、刑事ではなく、復讐魔になったような作品で、テイストは実に似ています。やはりハードボイルドであり、ただ違うのは変装したりとか、すこしコミカルな面も垣間見られますが、基本それらも復讐行動の為の小芝居のようなものでした。
会田のような刑事ではないので、拷問とかに制御がなく、それこそ相手を徹底的に痛めつけるシーンもありました。また相手役の三田佳子さんとの関係性もストーリーに絡んでいて、やはり刑事では描けない部分も描かれたりしていました。
「江戸の牙」/剣精四郎(つるぎ・せいしろう)
1979(昭和54)年10月~1980(昭和55)年3月まで放送された時代劇です。この出演の後、再び「非情のライセンス」に三たび登板する事となります。
江戸本所方を舞台に、密命を受けて秘密裏に立ち上げられた警察的な組織「江戸の牙」。悪人どもを一掃を目的とするこのチームのリーダーとして活躍する男の役柄です。
基本ハードボイルド調ではありますが、仲間に坂上二郎さんや藤村俊二さんなどコメディー系のメンバーがほぼそのままの役柄ででいる事もあり、マイルド瞬間とハードな瞬間の落差の激しい作品といえます。また新人時代の京本政樹さんがこの作品に見習い同心役でレギュラー出演しており、途中で殉職を遂げます。
クライマックスの殺陣シーン前の口上で「江戸の牙参上!」と告げて、斬り込みを始めるシーンがお決まりであり、印象的でもありました。
「闇を斬れ!」/鳥飼新次郎
1981(昭和56)年4月~9月に放送されたやはり時代劇作品で、ここでも主演しています。
「非情のライセンス」最終作に出演を終えたところで、ちょうどこの頃に50歳を迎えています。
タイトル通りですが、闇の組織の頭目であり、上司からその組織立ち上げの命が下ったストーリーは「江戸の牙」とおんなじです。
世は田沼時代で、歴史で習ったような悪として、これが敵キャラだった訳ですが、これらと対決するのが基軸でありますが、ストーリー的にはあまり利記憶がなく、ただCMに入る際のアイキャッチで大型犬がジャンプしていたのだけはよく覚えています。
そして、最終回は観れなかったのですが、主人公の彼を除く全員が殉職してしまう壮絶なラストだったようで、その仲間が坂口良子さん、三浦浩一さん、山城新伍さんでした。今では三浦さん除き全員故人ですが、山城さんがこういう時代劇の脇を固める時はいい役が多いんですよね。ラストで仲間を守って壮絶に死んでいくという点では「影同心Ⅱ」でもおんなじでした。
クライマックスの「闇を斬る!」の「きる」の天知さんの独特の言い方がツボでした。タイトルは「闇を斬れ!」で、口上は「闇を斬る」というもので、後に里見浩太朗さんが主演した全く違うドラマは「闇を斬るだったので個人的にその辺、こんがらがってます(笑)
あと、連ドラではありませんが、2時間ドラマの「明智小五郎」シリーズでも人気を博して、彼の当たり役のひとつとなりました。初期「2時間ドラマの帝王」だったともいえます。
今の役者さんは、イメージがつきすぎてしまうのを恐れて「長く同じ役をやらない」という方が多いようですが、天知さんが会田刑事を長くやっていて確かにそのイメージはかなりつきすぎたと思うものの、その後にバラエティドラマにも出演されて新しい一面も見せたりしていました。だから長く出演しても悪い事はないと個人的には思っていますし、いろんな役がやれなくなることもないと思います。
惜しむらくは1985(昭和60)年、54歳の若さで亡くなられたという事で、もっと長生きされていれば、いろんな役柄が回って来てたでしょうし、実際50歳をすぎてから、それまでのような役柄とはちょっと違ったものも演じておられただけにその早世は実に残念でした。
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